カテゴリ:本( 290 )

『カエサルを撃て』、『剣闘士スパルタクス』、『ハンニバル戦争』佐藤賢一

e0171821_09380125.png佐藤賢一のローマ3部作を続けて読みました。
なぜか、時代が遡っていく。

西洋史に造詣が深い作家ですが、フランスが専門のように思っていたので、ローマ史を書くとは意外な感もありました。
だけど、読み始めたら面白い。
カエサルを撃て』は英雄として描かれることの多いカエサルを、実に小心な人物として描いて居る。

歴史家のみならず歴史に興味を持つ人間が読むことの多い「ガリア戦記」を自分を大きく見せようと綴るカエサルの姿を滑稽さを交えながら描いて行きます。
むしろ物語の主人公は、部族対立の多いガリアを統一してローマの支配に反抗しようとしたウェルキンゲトリクスではないか?とさえ思えるほど。
言うなれば、これは「反ガリア戦記」の面持ちをした物語になっている。

門閥派の大立て者・ポンペイウスの引きで執政官となり、財力を誇るクラッススとカタチの上では三頭政治の一角となったカエサルですが、ガリアの地でローマの政治情勢ばかり気にしながら、落ちこぼれまいと汲々となるカエサルをあざ笑うかのように反ローマ勢力をまとめ上げて行くウェルキンゲトリクス。持ち前の美貌と残酷さを前面にガリア諸部族の覇者として、戦略拠点を次々に落としてローマ軍を窮地に陥れていく。

負けを覚悟したカエサルがローマ人としての誇りに目覚め、乾坤一擲の大勝負に賭ける。
ここから後の「英雄」の名に恥じない転換を遂げるカエサルの誕生となります。
それにしても、途中の負け戦を「ガリア戦記」に書く際に、責任を他に転じて自分を正当化しようとするカエサルの姿は、会社員が報告書に失敗を記す時にやることの原点ではないかと思えるほど…。自分でも、負けたプレゼンの報告書を書く時にやった覚えがあります(笑)

剣闘士スパルタクス』は、時代を少し遡った紀元前60年頃の話。
有名な剣闘士たちの反乱です。

何といっても、占領地から連れてこられ、鍛え上がられた剣闘士=奴隷は相手を殺さないと自分が生き残れないという真剣勝負の殺し合い。
ローマ人の娯楽の最たるものだったようで、今もローマに残るコロッセオはその舞台です。

性奴隷として奉仕する女パトロンに逆らったからと、大観衆の前で死の寸前まで追い詰められ、不利な戦いを強いられるスパルタクスの姿に他の剣闘士も一致団結して反乱を企て、見事に成功してしまう。
そんな剣闘士の軍団に周辺地域の奴隷達が加わり、鎮圧に向かうローマ軍を撃破して南部イタリアを占領するまでになる。
そんな日々の中で、スパルタクスが悩み始めるのですね。
自分はリーダーとして、向いているのか…と。そして、何を目指して闘って来たのか?
ローマ人達は、ローマという国のために闘うのに何の躊躇いも無いのに…。
成り行き任せでリーダーとなった”ただ強いだけの男”が、トップの座について知るリーダーの重圧に苦しむという物語。ここでも、人間の内面の弱さに焦点が当てられています。

ハンニバル戦争』は、カルタゴの英雄ハンニバルに対抗して闘ったローマの貴族の御曹司・スキピオ・アフリカヌスの物語。
第1部は、10代でハンニバル戦争に駆り出され、ローマ軍が大敗する中で3度も生き残ったスキピオの生涯の前半が描かれて行きます。
第2部では、父・叔父をイベリア半島のカルタゴ軍に殺されたスキピオが、年齢が到達していないのにイベリア半島軍の総司令官に立候補するところから始まります。
ハンニバルの戦略を徹底的に分析し、それを今度はローマ軍に導入してカルタゴ軍との戦いに援用して勝利を収めていく。
最後には、カルタゴの地ザマでイタリアから撤退してきたハンニバルと頂上決戦に…。
歴史上、名高い”ザマの戦い”が物語のクライマックスとして盛り上げてくれます。

この3部作は、”英雄”と称えられた人間の弱さや葛藤、そして自分を見つめる勇気…というテーマでローマ史のターニングポイントを見事に描いている。
ここら辺は、佐藤賢一の着眼点の良さを褒めるべきでしょう。
塩野七生の「ローマ人の物語」では、この部分を何と書いてあったか読み直してチェックしてみようかな。

by dairoku126 | 2019-02-13 12:47 | | Comments(0)

『花々』原田マハ

e0171821_14214477.png
原田マハのデビュー作「カフーを待ちわびて」のスピンオフもの。
短編集ですが、それぞれの篇のモチーフになるのが「花」。
最初の短編の舞台は、「カフーを…」の舞台となった沖縄県与那喜島。時間設定もちょうど「カフー」と同時期に設定されています。

こちらから「なか見!検索」が出来ます。
沖縄、奄美の島々を舞台に、心に屈託を抱えた女性達の織りなす物語が連続して綴られて行きます。
章を追うごとに島を移りながら、複層的に物語が進んで行く。
どちらかというと、ライト・ノベルに近いのでしょうが、重たい本を読んだ後などにはサラサラと読めて良い。

まぁ、作者が原田マハなので、ライト・ノベルといっても軽薄な感じにはなってないし、現代女性の抱える悩み・問題とか痛みなどをキチッと描いていて、それなりに楽しめる本です。「さいはての彼女」に似ているかも…。

最後の章で「カフーを待ちわびて」のエンディングではカタルシス的な部分だった結末が明かされるのも、思わずニヤッとさせられるし、ハッピーな気分にさせてくれます。
もう一度、「カフー…」を読んでみようかと思わせてくれる本でした。

by dairoku126 | 2019-02-12 15:04 | | Comments(0)

『梅もどき』諸田玲子

e0171821_11131896.jpgいやぁ、ホントに感心しました。さすが、諸田玲子と言うべきか。
権力に翻弄される時代に己の愛を貫く”戦う女性”の清々しい生涯を、鮮やかに描いた物語です。

秀吉亡き後、徳川と豊臣が天下を争う中で両家の血を受け継ぐ”お梅”は、関ヶ原の戦いに際して越前北ノ荘城主である父・青木一矩から「何があっても生きよ!」と諭される。
関ヶ原の後に敵将の娘として追われる身として大阪城から伏見に潜み、北の政所を頼って京都に行ったものの肝心の北の政所が所在不明。父が寄進を怠らなかった知恩寺を頼り、そこから二代目茶屋四郎次郎の家に匿われることに…。

そこの茶室で出会った家康の寵臣・本多正純の凜々しさに魅せられる。
於大の方の母はお梅の曾祖父と兄弟という関係から、本多正純の計らいで関ヶ原の敗将となった青木家への恩赦を願いに家康の母・於大の方との面会が叶ったところ、於大の方は一目で気に入り、家康の側室としてお城に上がるように画策する。
ということで家康の側室となるのですが、家康はお梅の恋情を知ってか知らずか本多正純に下げ渡すことに…。

物語は、家康の死後に失脚し、横手城に幽閉された本多正純の世話を焼くキクという女性の思いがけない話から始まります。キクは阿国歌舞伎の踊り子の一人として、お梅が関ヶ原の戦いの後に伏見に潜んでいた時に縁を結んだ女性。
彼女も運命に翻弄されて本多正純と寵を争う大久保長安の庇護を受けることになる。

こうして、キクが正純に語る昔語りと、お梅と正純の過ごした夫婦時代という二つの時間が交互に現れるという構成で物語が進んで行きます。この構成が、次の章でキクは何を語るんだろう?という待ち遠しさを正純の気持ちになって抱かせるのですから、成功しているんでしょうね。

本多正純というと僕は隆慶一郎の『影武者徳川家康』の影響で当時には珍しい「近代的な官僚」という印象が強く、好意的に見ていたので彼の生活が伺える物語だということで贔屓目があるのかもしれませんが…。

初めて二人が出会った茶屋家の茶室に飾られていた「うめもどき」の花と、本多正純が辞世として横手城で詠んだ「日だまりを 恋しと思う うめもどき 日陰の赤と 見る人もなく」という詩が呼応するように描かれているのも素晴らしい着地です。


by dairoku126 | 2019-02-08 12:25 | | Comments(0)

『日本文化の形成』宮本常一

e0171821_16542157.png本の帯に「民俗学の巨人による興味深い遺稿の全貌」とあるように、宮本民俗学の集大成として執筆途中に逝去したため中断をやむなくされた「日本文化の形成」三部作の第3部にあたります。
こちらで試し読みが出来ます。

これほど日本中を踏査して聞き取り調査を行った民俗学者は無いというほど、自分の足で日本文化の源流を探った宮本常一が晩年には東南アジアまで視野に含めて構想したもの。
面白い示唆があちらこちらに散りばめられています。

特に「日本文化の海洋的性格」というのが興味深いものです。
例えば、家のカタチひとつとっても農耕民は「田の字」型の家に住み、海洋民は舟の船室のように「並列」区切りの家に住むなどという特長があるとか。
出入り口も農民型は引き戸、海洋民は蔀戸になっているとか。
「源氏物語絵巻」などに見られるように貴族の館は、蔀で外と区切られ障子とか壁が無いという海洋民的性格の出たのはなぜか?
などなど、縄文人から弥生人、朝鮮半島や北東アジア、さらには東アジアから渡って来た人などが持ち込んだ多層の文化が列島内で熟成され、ひとつの文化にまとまっていったという痕跡を踏査した経験から語っていきます。

確かに、日本人には他民族と比較してDNA的に「これっ!」と決め手になるパターンが見受けられないという話を聴いたことがあります。それだけ、混血を繰り返して来たということか!
純粋な「日本民族」というのは、あり得ないということなんでしょうね。
朝はパン、昼はイタリアン、夜は和食という「雑食性」も、こんなとこから来ているのか?

解説は、網野善彦さん。
常民文化研究所で宮本常一とは、何度か会っていたようです。

それにしても、前の『女子漂流』も含めて、読書も雑食的なものになっている(笑)


by dairoku126 | 2019-02-02 17:37 | | Comments(0)

『女子漂流』中村うさぎ、三浦しをん

e0171821_16343680.png早くも、2月になりました。
家にあったから、こんな本を読んでましたが、まぁ面白いというか、同じ女性とはいえ異人種としか思えない二人の対談がどうなるか?という興味もありました。共通項は、二人とも横浜のミッション系の女子校出身ということか!

タイトルの『漂流』のごとく、二人の対話は目指すべき場所が見えない雑談(笑)それも、かなり際どい話も多々含まれていて、あたかも女子校のトイレでこっそり話されている会話を聴いているような気がしてくる。
「男」という存在を意識せずに女性同士が話すとこうなるのか?

それでも、読んでいくと女性というのは、やはりリアリストなんだな!という感慨さえ抱かせるほど…。
男というのは、所詮つまらぬことに拘るロマンティストなんだな…という気がして来ます。
というか、ガキそのものじゃないか(笑)

中村うさぎが同志社大学に行って男子学生も交えて話をしていて「ヤバい!」と言ったら、男子学生に「女性がヤバい!なんて言葉を使ったらあかん!」とキツくたしなめられたという話には笑いました。関西ではいけないという風に本人は解釈したようですが…。
確かに、昨今女性タレントが食レポで使う「美味い!」というのも凄く違和感があってイヤですけどね。でも、関西系の女性お笑いタレントが使い始めたような気もする。

まぁ、暇な時に家の中の日だまりで読むには、肩が凝らなくて良い本かもしれません。
読書メーターの感想文に「電車の中では読むのが躊躇われる本です」と女性が書いていたし…。

by dairoku126 | 2019-02-02 16:53 | | Comments(0)

『桜田門外ノ変』ー上下巻ー 吉村昭

e0171821_13223095.jpg吉村昭があとがきに書いていますが、歴史を調べていて江戸幕府崩壊の過程と「大東亜戦争」敗戦の類似を感じたとか。

大老・井伊直弼を水戸浪士が襲撃した事件は、昭和史における”2・26事件”とダブルと書き上げたのが、この『桜田門外ノ変』です。

幕末史の大事件を書くに当たって、吉村昭らしく徹底的に資料の蒐集にかかります。その上で、主人公を事件の時に現場責任者を務めた関鉄之介に…。この人は、日記その他多くの資料を残していた。

それにしても、実に丹念に書かれています。
まずは、当時の水戸徳川家の内部抗争(門閥派vs改革派)から説き起こし、主人公が属する改革派=尊攘派の領民と一体化した水戸家の”絆”を描いて行きます。
農民を兵として訓練するのは長州の奇兵隊よりも、水戸の方がはるかに早かったんですね。

クライマックスに置かれるはずの”桜田門”での事件そのものは、物語のエピソードのひとつという感じで取り扱われ、ここに至るまでの周到な準備、他藩との折衝、事件後の逃亡生活での主人公の日々が描かれて行く。
水戸学と呼ばれる”政治思想”自体が、昭和前半の無謀な戦争と敗戦、さらには現自民党政権からネトウヨにまで繋がっているようで、僕自身は好きでは無い。
その思想の”温床”となった水戸士民の思想風土を描いた小説とも言えるかもしれません。

e0171821_14195790.jpg
こんな硬いものを読みながら、同時にジェーン・スーの「女の甲冑…」で張り詰めた緊張感をほぐすというのもありかな?と思って読み始めたけど、なかなかどうして現代日本は未だに水戸学というか男尊女卑社会がアンダーカレントのように流れているのだねぇ。
男からは気づかないことが沢山あります。

女性が女性の視線の中で生きることも大変なんだ。
むしろ、男の方がラクかも…。

フェミニズムの本ではないけど、男女問わずに知っておいた方が良いことなのかも…。
こちらで試し読み出来ます!
中野信子の解説が、また良かった。

by dairoku126 | 2019-01-24 14:36 | | Comments(0)

『マスカレード・ホテル』東野圭吾

e0171821_14332535.jpgこの本が東野圭吾の2冊目ですが、500ページ以上ある長編ミステリーなのに一気に読んでしまいました。実に、面白かった!

内容は、こちらを見ていただければ…。

東野圭吾の本は、もともと妻が読んでいたので家にはあったのですが、なんとなく手を出さなかった。何故だろう?
まぁ、それ以外に僕にとって興味がある本が次々と出て来たからなんでしょう。ちょうど、一段落した感じの時に妻から「ナミヤ雑貨店の奇跡」を薦められ、読んでみたら結構面白かったので「マスカレード・ホテル」にも手を伸ばしたという訳です。
最初に感心したのは、ホテル・ビジネスについて良く調べていること。
綿密に取材をさせてもらったのでしょうが、舞台となるホテルの裏側が良く描けていること。ここが嘘くさかったら、話は成立しないんでしょうけど。
まぁ、作家は良くホテルを利用するからなのかもしれませんが…。

「ナミヤ…」の時にも感じたけど、この人は伏線の張り方というか地雷の仕掛け方が上手い。
「え、そこで…?」という感じで、後で効いてくるのです。
だから、犯人が分かっても納得できるんですね。

坂口安吾の『不連続殺人事件』を読んだ時にも書きましたが、解決が合理的なのでしょう。
不連続殺人事件が起こり、現場に残されたメッセージ(数字の羅列)をヒントに、次の殺人事件が起こる場所を特定し、警察庁の刑事達が超高級ホテルに潜入して犯人を待ち構えるという設定なんですが、ここら辺に破綻がない。
いやいや、感心しながら読んでいました。
「マスカレード」三部作ということで「マスカレード・イブ」、「マスカレード・ナイト」と続くらしい。

それにしても、この原作が映画化されるんですが、主演がキムタクと長澤まさみというのにはガッカリ。原作をキチンと読めば、絶対に出てこないキャスティングですよ。
もっと、知的な部分がほのかに香るような若いタレントだっているだろうに…。

製作委員会がフジテレビ中心で、監督が「HERO」などの鈴木雅之、脚本が同じく「HERO」の福田靖というジャニーズ事務所べったりのラインですから端から「キムタクありきの企画」だったのでしょうね。どんな出来になるか容易に想像できちゃうな。
キムタクに付き合わされる長澤まさみがかわいそう。
ま、映画は観なくても良いか!

by dairoku126 | 2019-01-17 15:15 | | Comments(0)

『帰蝶』諸田玲子

e0171821_09180910.jpg信長の正室、斎藤道三の娘・帰蝶。
美濃から嫁入りしたので「濃姫」の方が馴染みが深いのでしょうが、その生涯は意外と謎が多い。
没年もハッキリしないほど、後半生は表に出ることが少なかった。

著者・諸田玲子は信長の残虐性が嫌いだけど、こんな人の妻はどんな思いで日々を過ごしていたのか?という疑問から「帰蝶」に興味を抱き、資料を集めて書き出したようです。
さらに、女性の歴史学者との対談で戦国武将の妻が「日々、刀の切っ先を目の前に突きつけられているような…」という言葉に触発されて「信長の妻」を書こう!と思い立ったとのこと。

だから、ある意味でフィクション性が高い物語ですが、その「目の前に刀が…」という感じは良く出ている。斎藤道三の娘という誇りを胸に秘めながら、信長があちこちで孕ませた子供を手元に引き取り、自分の子として育て、織田家を盛り立てて行く。
実に覚悟の決まった女性として描いています。
そこが、いかにも諸田玲子の好みなのかもしれませんが…。

大筋としては、こちらを見ていただくと分かると思いますが、信長が清洲城で頭角を顕し始めた頃から出入りする朝廷の御倉職を努める京都の豪商と出会いとその後の交流が物語の大きな伏線として効いている。
帰蝶の下に集まる従兄弟の明智光秀をはじめとする美濃衆と、信長が勢力を増すに連れて登用していく羽柴秀吉を筆頭とする尾張衆との相克がやがて本能寺の変へと…。

語り尽くされた感のある「本能寺の変」ですが、このアプローチは新鮮でした。



by dairoku126 | 2019-01-17 10:16 | | Comments(0)

『深海の使者』吉村昭

e0171821_12455449.jpg吉村昭が戦史を描いた7作の最後の作品
ちなみに、最初に書いたのが「戦艦武蔵」です。

なぜ、これが最後になったのかというと「解説」に半藤一利が書いているように、生き証人とも言うべき実際に現場に居た人達が残り少なくなっていたから。「戦艦武蔵」を書いた時には、90%近くの資料が実際に会って聴き取ったものだったのに、この作品の時には35%程度になってしまったからという理由です。

これは、歴史でも習うことの無かった「遣独潜水艦作戦」をテーマに描いた物。インド洋を渡り、喜望峰を回ってドイツ占領下のフランスの港まで連合軍の哨戒艇をかいくぐりながら深く潜行した潜水艦乗りの物語です。

第2次世界大戦時、同盟国のドイツ・イタリアに外交官・武官の派遣や交代、戦略物資や新兵器やその部品、図面などの交換をしようにもヨーロッパから離れた日本とを繋ぐには潜水艦に頼るしかなかった。特に日本の潜水艦は大型で航続距離が長かったので、この隠密作戦にはうってつけだったようです。
ただし、第5次まで行った作戦のうち、完全な成功を収めたのは1回だけ。
それ以外は、最後を除いてフランスまではたどり着くものの、戦況の悪化に伴い制海権・制空権を連合国側に握られ成功を目の前にしながら復路で撃沈されたりしてしまった。
この作戦に抜擢されたのは、当然ながら優秀な潜水艦乗りばかり。
その優秀な人員と、ヨーロッパに駐在していた武官や外交官が多数喪われることになった。

さらに、この作戦のおまけのように、インド独立運動家チャンドラ・ボースは亡命先のドイツからドイツの潜水艦Uボートでマダガスカル島沖まで来て、どこで日本の潜水艦に乗り換え来日、自由インド仮政府を樹立し、インド国民軍の総司令官に就任しています。

公式の戦史にほとんど残らず、生存していた関係者からの証言や連合国側の交戦記録などをピースに巨大なパズルを完成するように歴史の表面に描いた吉村昭の執念の作品です。
まさに、深海に消えていった「つわもの達」へのレクイエムです。

by dairoku126 | 2019-01-07 13:32 | | Comments(0)

『味なメニュー』平松洋子

e0171821_13374854.png読んでいて「あ、これ食べたい!」とか「この店に行ってみたい!」と思ってしまうのは、この人の文章から立ち上る香りや場の雰囲気がひときわ優れているからでしょうか?
いやぁ、読んでいてヨダレが出そうな本でした。

冒頭に出て来る東銀座「銀の塔」。
この店の触ると火傷しそうなグツグツと煮立った土鍋に入った熱々のビーフシチューの味を想い出しました。
同時に、あの時の仕事や居合わせた仲間の顔も…。

新橋演舞場の真向かいにあるIMAGICAの編集室でデジタル編集をする時の楽しみが、岡持に入れて出前で持ってきてくれる「銀の塔」のビーフシチューでした。
延々と続くデジタル編集の単調な作業で気持ちがダウンしかけた時の気付け薬。
まだ、デジタル編集の初期の頃ですからスタッフも慣れていないし、試行錯誤の連続のような状態でしたから、とにかく時間がかかった。
朝から始めて深夜までかかるなんてことはザラでしたから…。
土鍋に入ったビーフシチュー、ごはん、香の物という気取らない定食っぽさが良かった。

この人の良いところは「食べ物に貴賤無し」というところ。
インスタ映えとか、グルメとか、オシャレとか一切関係なし。
だから赤羽の千円札一枚で酔っ払える「せんべろ」の大衆酒場や、立ち食いそば屋めぐり、「おじさんの楽園」新橋駅前ビルにだって行ってしまいます。
そんなところでも、「これなら!」という逸品を探し当てる嗅覚も凄い。

「かつサンドの秘密」のところで登場する「万かつサンド」を読んでいるとパッケージからして凄いことが分かります。
同時に良く行った有楽町ビルの地下にあった「万世」の排骨拉麺が無性に食べたくなった。
銀座の立ち食いそば「よもだ」とか「かめや」にも行ってみたいし。

この人の取り上げた店に行って「ハズレ!」と思ったことはありませんから…。



by dairoku126 | 2018-12-31 14:24 | | Comments(0)