今年は明治維新150年ということで、長州出身の総理大臣が盛大に祝おうとしているようですが、歴史探偵と世界史の大家が「明治維新」という言葉に含まれた「虚構」を見事に論破してくれる「目から鱗」の本となっています。
半藤一利が「あとがき」で語っているように、幕末の幕開けとなった「ペリー来航」を当時の世界におけるGDPなど「経済」という観点から明快に語る出口治明の論はまさに「目から鱗」。 「薩長史観」で語られてきた「歴史」が、どれだけ権力者の自己正当化のためのものであったかが語り合われて行きます。 そもそも「明治維新」という言葉自体が、明治末年になって権力を握った山県有朋あたりが自己正当化のために創り出した言葉で、それまでは「ご一新」と言われていたらしい。 この本では、ペリー来貢時の老中首座・阿部正弘の功績をまず取り上げていきます。 「開国」→「富国」→「強兵」という「世界の中の日本のあるべき姿」をグランドデザインとして提示し、勝海舟、大久保一翁など幕末に大活躍する人材を登用し、徳川幕府の政治を大転換した偉人と位置づけています。 そのグランドデザインを引き継いだのが、大久保利通。 「尊皇攘夷」を名目に、徳川幕府を転覆した以後の政府の中で、ただ一人の合理主義者。 隠棲していた西郷隆盛を引っ張り出して、まずは「廃藩置県」を行います。 現実の世界を見せることによって意識改革を促そうと、有用となりそうな人材や留学生を引き連れて「岩倉使節団」として世界の現状を2年近くも視察して回ります。 それも当時GDPでNo.1の地位に躍り出たアメリカ合衆国を8ヶ月もかけてじっくりと見るという念の入れよう。意識改革が出来ないと見なされた山県有朋などは、留守に回ります。 留守中の政府を西郷隆盛に託し、「何も変えるな」と言い置いたのですが、留守を預かる西郷にしてみれば薩長藩閥で登用された役人達は「政治」とか「行政」などとは縁遠い連中ばかりだったので旧幕臣を登用して「行政」の効率化を図る。勝海舟や榎本武揚、大鳥圭介などは西郷人脈で新政府に仕えることになります。 「西南戦争」を経て、西郷・大久保・木戸といった「維新の三傑」を呼ばれた人達が居なくなった後は、大久保に可愛がられた伊藤博文と山県有朋という長州系の人間が権力を握ります。この時に自分たちの出自の正当性を図るために吉田松陰の「神格化」が図られます。 合理主義者・伊藤はまだしも、山縣は自己の権力の肥大化のために「強兵」を推し進め、後の昭和の軍事国家の因となる「統帥権の独立」を画策します。 伊藤が生きている間こそ押さえが効いたけど、伊藤暗殺後は条文自体が一人歩きをはじめ、「開国」→「富国」という流れが「強兵」の後ろに追いやられてしまう。 後の国際連盟脱退から始まる「攘夷」の揺り戻しが、太平洋戦争へと日本を歩ませてしまう。 まぁ、世界史に視点を置いて「幕末・維新」という歴史の流れを見てみると、これほど教科書や歴史教育で語られてきたことが薩長主導の作られた歴史であることが明快に分かります。 当時の長州は「イスラム国」と同じ…なんて言葉まで出て来ます。 また、人物評を論じていく部分も実に面白い。 西郷隆盛=毛沢東なんて今まで考えて見たことも無かった。 暑い夏に刺激的な読書を求める方は、ぜひどうぞ! 爽快な一冊です。
by dairoku126
| 2018-07-09 11:35
| 本
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Comments(2)
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PERO
at 2018-07-15 16:26
x
私が最初に見た伊能忠敬の日本地図は、歪んでいてぞんざいなものでした。(中学教科書)
ところが、21世紀に入り、伊能忠敬の地図を捜し出すプロジェクトが開始し、数年で全てが手に入りました。(主な出所は、アメリカ公文書館(笑)) その精度に驚きました。地図は平面ですが、地球と言う球面上の地図なので、平面に直すと誤差が生じます。その誤差を天体観測で補正してあったそうで、その時代の地図としては、世界一の精度を誇ったそうです。 ところが、明治維新後、この地図は天皇家宝物蔵に隠蔽され、21世紀まで実物を見る事ができませんでした。明治維新で新しく作成された地図は、精度が低く、球面誤差の修正も行われていない代物です。 江戸時代の功績の全てを封印して貶めることが、明治維新政府の意思だったのでしょう。 ちなみに、私が最初に見た伊能忠敬の地図は、どこかの本に掲載してあったものを出典も確認せずに転載した偽物でした。
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dairoku126 at 2018-07-19 10:42
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