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『英国諜報員アシェンデン』サマセット・モーム

『英国諜報員アシェンデン』サマセット・モーム_e0171821_10334775.png今日から10月。急速に秋めいてきました。
なんか、淋しいような…。

30数年前に読んだ本ですが、確かタイトルは、その時には「アシェンデン」だけだったような?
読み始めて見ると、すっかり内容を忘れてました。
まぁ、新鮮で良いけど…。

英国というのは、作家を諜報員というかスパイにすることが多いらしく、モームをはじめグレアム・グリーンとか児童作家のアーサー・ランサムも諜報活動をしています。
作家というのは、取材を理由にあちこちに滞在して見て回ったり、活動する時間帯や行動が不規則でも、「作家だから」で済んでしまうところがあるからなのでしょうか?
もちろん、数カ国語が操れるとか、人間そのものへの観察眼が優れていたりという特性を持っているからでしょうけど。

この小説でも、最初の活動の舞台は中立国のスイスです。
第一次大戦ですから、敵はドイツ帝国とオーストリア・ハンガリー帝国。
スパイ小説の主人公のように、波瀾万丈の活動をするわけではありません。
むしろ、活動のハブのように情報を集めてくる複数のエージェントの統括したり、提供された情報の中身を吟味して情報部への連絡や報告書を書いたりと、まさに「インテリジェンス」という言葉通りの役割を果たしている。
各章が短編のような構成にもなっているのが、モームらしい。
英国大使が自分の人生を語る章なんて、これだけで短編小説として面白く読めます。

章が進むにつれて、アシェンデンの活動範囲や内容が膨らんでくるのは、それだけ諜報活動に慣れてきたのと、経験値が上がってより困難な仕事を任されるようになったからでしょう。
まだ、交通手段は列車と船。
電話も使わずに手紙や無線でやりとりというのも大らかな時代らしくて良い。
終盤になると革命を終えたばかりのロシア臨時政府に出向くのに、大西洋経由でアメリカ大陸を横断、太平洋を渡って横浜に上陸、敦賀からウラジオストクに渡り、シベリア鉄道に揺られること11日間、それでペトログラードまで…と任地に赴くまでどれだけの時間を費やしていることか。
そこでケレンスキー内閣を支えるべく活動したことすべてが、レーニン率いるボルシェヴィキの11月革命により無になってしまうのですが、この「ハリントンの洗濯」という終章に登場する男(アメリカ人)を見つめるモーム(イギリス人)のクールな視線が良いですね。
とても、シュールな終わり方をしています。

いや、読み返しというより新作を読んだ感じでしたが、あらためてモームが好きになりました。

by dairoku126 | 2017-10-01 11:24 | | Comments(0)


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