人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『戦争と天皇と三島由紀夫』保阪正康ほか

『戦争と天皇と三島由紀夫』保阪正康ほか_e0171821_9135429.jpg先日書いた「三島由紀夫と司馬遼太郎」を読んでから、なぜか三島由紀夫のことが気になって絶版になっていたこの本をAmazonで探してポチッとしてみました。

この本は、戦後60年を機に行われた保阪正康の対談集で半藤一利とは「昭和史での天皇」、松本健一とは「三島由紀夫」、原武史とは「天皇家」、冨森叡児とは「自民党」について主なテーマとして語り合っている。

昭和史に詳しい半藤一利との対談では、「国家元首と大元帥」という戦前の天皇の役割の二重性がテーマですが、昭和天皇の発言を分析していくと見事に使い分けをしていたことが分かります。まさに「畏るべき昭和天皇」です。
2・26事件の一報を聞いて、それまでの背広から軍服に着替え、大元帥として鎮圧を命じていたり、内奏に訪れた陸軍大臣(内閣に属する)と参謀総長(陸軍に属する)への発言もそれぞれに応じた受け答えをしている。

松本健一とは「三島由起夫」の自衛隊市ヶ谷駐屯地侵入事件が主なテーマですが、やはり昭和天皇はあの事件を不快というか、時代を逆転させる恐ろしい試みとして受け止めていたようですね。だから、事件の翌日に侍従長にポツリと語った以外は二度と「三島由紀夫」という名前を口にしなかったとか。

原武史は気鋭の天皇制研究家。新しい視点で明治維新以後の天皇家の研究を進めているようですが、天皇家の祭祀の側面から昭和天皇が母親である貞明皇太后から強い影響を受けていたことは、初めて知りました。美智子皇后が民間から入って来て、キリスト教的教養が皇室に入ったことにも昭和天皇は「共産主義」への防壁として受け入れようとしたという話は面白かったですね。

冨森叡児は、朝日新聞の自民党担当の政治記者・常務取締役として深く保守政権の内部取材を行ってきた経験や事例から戦後の自民党史を語っています。
岸信介が司法取引をしてA級戦犯を免れたなんて知らなかった!
岸信介が行った60年安保改定での戦前回帰への流れを敏感に感じ取った国民的なデモを見て、池田勇人が「この学生達の就職先を見つけないと大変なことになる」と感じ、「所得倍増」という経済成長路線が無ければ自民党の長期政権はあり得なかったと断じています。
アメリカ政府内部でも、あのデモを見て自民党はもういけない!と思ったらしく、次の総選挙で池田勇人を擁した自民党が大勝したことが不思議でならなかった…という感想を漏らしたとか。歴代の自民党政権でも、経済優先路線を踏襲し、戦前回帰を匂わすことはタブーとなったのでしょうね。謂わば、岸信介は鬼っ子扱いであったようです。
現政権の首相である孫が祖父の名誉回復に必死になっている以外は…。
吉田茂から佐藤栄作、田中角栄、小泉純一郎までの自民党政権について語り合っていきます。

「昭和史」をさまざまな視点から探っていく、このような本が絶版になっているのは惜しい!
by dairoku126 | 2015-04-16 10:09 | | Comments(0)


<< 遅ればせながら…。 晴れても… >>