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「星火瞬く」葉室 麟

「星火瞬く」葉室 麟_e0171821_10204015.jpg2011年に単行本で出版された本書ですが、8月に文庫化されたので…。
葉室麟という作家は、語り手となる主人公の人選が上手いというか、意表を突くというか、よく知られた史実でも語り手を変えることによって新鮮な視点を獲得しようと試みてくれるのが特長ですが、この「星火瞬く」でも見事に成功しています。

この本の主人公は、アレクサンダー・シーボルト
日本にオランダ医学をもたらした長崎のオランダ商館付きの医師として有名なシーボルトの息子です。
父の方のシーボルトは、ヨーロッパに日本のことを紹介した人物として、またシーボルト事件などで有名だし、長崎にはシーボルト記念館まで建っているのに対し、息子の方はあまり知られていません。
ちょうど、司馬遼太郎の「花神」を読み返したばかりのところだったので、最初の来日の時に長崎に残した娘・イネが日本初の産婦人科の医師としての道を歩んで行く姿が印象に残っていました。アレクサンダーは、シーボルトがヨーロッパに戻ってから結婚した息子。
イネとは異母姉弟となります。

このアレクサンダーが幕末に再来日した父・シーボルトに伴われて長崎に到着し、シーボルトが幕府の外交顧問として江戸に迎えられるのと一緒に上京、当時の新開地・横浜で目撃した幕末史が語られて行く…というのが概略です。
登場人物も実に多彩で、ロシアで革命を図りシベリア流刑中に脱走して日本に来ていたバクーニン、吉村昭の「アメリカ彦蔵」で名前を知っていたジョセフ・ヒコ、小栗忠順、勝海舟、清河八郎、そして高杉晋作などなど。

ロシア軍艦対馬占領事件や高輪・東禅寺にあったイギリス公使館焼き討ち事件など、幕末の外交史上有名な事件の「時代の証人」としてアレクサンダーの目を通して語り、同時に成長して行くアレクサンダーの姿を描いて行きます。
幕末史というのは、いろいろな作家が語り尽くした感がありますが、これは異色の幕末史。
視点を変えるだけで、まだまだ違う味が楽しめるのかと感心しました。
by dairoku126 | 2014-09-05 11:11 | | Comments(0)


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