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やはり、モームは面白い。

やはり、モームは面白い。_e0171821_12225672.jpg近代の短編小説にはチェーホフの系譜とモーパッサンの系譜の2つのタイプがあるとかで、チェーホフの方は情緒的で一つのムードとか人生の漠然とした印象を伝えるのに対し、モーパッサンの方は理知的で話の面白さを身上としているとか。
その系譜からいえば、モームは明らかにモーパッサンの流れを発展させた作家といえるでしょう。緊密に構成され、起承転結があり、小洒落た「落ち」が利いている。

僕が20代の頃は新潮文庫から中野好夫訳のモームの作品が幾つも出されていたのですが、その頃買ったものは黄ばんでボロボロになっていたので10年ほど前に処分してしまいました。
最近、無性にモームが読みたくなって書店に行ってみたら、短編は「雨・赤毛」のみ、長編でも「月と6ペンス」「人間の絆」しかありません。他は絶版になってしまったようです。
あの頃のモーム人気はどこへ行ってしまったのでしょう?
英語の教科書にまで載っていたのに…。仕方なく他社の文庫を探していたら岩波文庫から行方昭夫編による「モーム短編集」(上・下)が出ていたので、代官山への行き帰りなどに読んでいました。電車の中で読むのに、短編というのは良いんですよね。

この年齢になって改めてモームを読むと、若い頃に読んだのとは違う面白さが分かります。
そして、描かれているテーマが古びていないというか、人間のやることは変わらないのか?
上巻冒頭の「エドワード・バーナードの転落」という話などは、実に秀逸です。
1920年代、自動車産業が発展を続けるシカゴを支配した価値観ー国の発展、繁栄を信じ、あくせくと働くことによりビジネスの成功と、それによって得られる裕福な生活が人生の目標であるーに染まった青年の目を通して、没落してタヒチに渡った親友が捲土重来を目指すどころか違う人生を送り始めたことを「転落」「堕落」という以外に理解しようがない生活を送っていることを描いたものです。人生の目標を「成功」という価値観からしか理解しようとしない人間に対して、タヒチで「転落」した青年の生活がいかにも楽しげで、生き生きとしたものに描いている。タヒチで彼に影響を与えたシカゴのビジネス界の実力者であったが「詐欺」を働いたのがバレた後に当時未開の地・タヒチに隠遁したアーノルド・ジャクソンという人物が生き生きと魅力的な人間として描かれているのがモームらしいと言えるのでしょう。
これなどは、読みながら池波正太郎の「人間良いことをしながら悪いことをし、悪いことをしながら善い人間であろうとする」なんて言葉を想い出してしまいました。

この短編集は、2008年に100を超えるモームの短編の中から18篇を厳選して編まれたとのこと。すべてにモームの機知とユーモアが鏤められた短編集といえるでしょう。
by dairoku126 | 2013-04-21 13:33 | | Comments(0)


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