一関「ベイシー」といえば、カウント・ベイシー・ファンのみならずオーディオ・ファンなら一度はお参りしなければ…という岩手県一関市のジャズ喫茶。
そこのマスターである"スイフティー"菅原氏が、オーディオ雑誌「ステレオサウンド」に連載していたものをまとめたものが「ぼくとジムランの酒とバラの日々」という本です。 この駒草出版の単行本は、過去に講談社が1999年に単行本で、2001年に文庫本で出したものが絶版になっていたものに、さらに「Bonus Track」としてアルバム「ベイシー・イズ・バック」の制作にまつわるエピソードを加筆したもの。 僕は、講談社の文庫本を借りて読んだことはありましたけど、改めてじっくりと読んで見たら(なんせ時間だけはイヤになるほどあるので)ブッ飛びました。 著者の菅原氏は1942年生まれ。早稲田大学ハイ・ソサエティ・オーケストラでバンドリーダー、卒業後「チャーリー石黒と東京パンチョス」のドラマーを務めた後、1970年に故郷の一関にジャズ喫茶「ベイシー」を開店。 余談ですが、彼の飼い猫は「チャーリー白黒」という名前だったとか。 オーディオへの探求心から生み出される「音」を聴くために全国からファンが集まる、ジャズ・サウンドの「聖地」となったことは有名な話です。三浪中の彼の人生を狂わせた一枚のレコード「Basie in London」の張本人であるカウント・ベイシーから後年"Swifty"なるニック・ネームを頂戴するほど可愛がられたのは著者の人徳のなせる技か? この本を読んでいると分かるのですが、「これ!」と思った人物とは、すぐにグズグズの関係に持ち込むのが得意技とか。どんなJazzの大物だろうが、作家だろうが、関係ないようですね。 ってことで、この本の解説は高橋克彦と坂田明が書いています。 さて、本の内容ですがAMAZONの方で「なか身!検索」が出来るので、目次なり、最初のページなりを読んでいただければ大まかなところはお分かり頂けるでしょうが、オーディオとジャズの話ばかりです。 特にオーディオに関してはJBLの「D130」とか「175DLH」などという型番が突然出てきますので、面食らう方も多いと思いますが、そこをグッと我慢して読んでいくと、味が出て来ると思いますので…。とにかく、文体がJazzそのものです。 色川武大、村松友視、高橋克彦という作家達が「参った!」というほどの文章力というか説得力がある文章は、読んでいてホントに楽しかった。 実は、この本の中で僕は叱られているんです。 東芝のCM制作を担当していた友達が「明後日、カウント・ベイシーの撮影なんだって…。誰なの、それ?」なんて言うのを聞いて、「それ、僕がやってあげるよ」って、親切の押し売り風に担当させてもらって撮影に行ったと思ってください。 だから、演出家と撮影の段取り打ち合わせも出来ずに、出たとこ勝負みたいな感じで撮影場所の渋谷公会堂に行きました。レコーディングと撮影を同時に行うということで、まずはオーケストラ全体を撮るなんて段取りになってました。アップは、後から…ということだったのですが、「ベーシーの指のアップなんて後から撮るの大変ですよ」と言っても演出家も分かってくれない。案の定、後から指のアップを撮ろうとしたら、自分が演ったアドリブ通りといわれてもベーシー本人はすっかり忘れちゃっている。 録音したものをプレイバックしてもらっても、細かいところが合わないのですね。 その場に、ジャズ評論家の野口久光さんが見学に来ていたことは知っていたのですが、この本を読むと菅原さんが野口さんを誘ったようですね。 そして、この顛末を書かれてしまったのです「ジャズを知らない奴らだ」と…。 まぁ、良い訳めいたことを言えば、撮影上の都合からいうと、ライティングを合わせるのにはロングからアップへというのが常識なので撮影隊は基本通りにやったのですが…。 でも、楽しい仕事でした。それ以来、東芝のオーディオ部門のCMは、僕が押しかけたまま居座って担当することになったのですが、翌年から始まったオーレックス・ジャズ・フェスティバルも含め素晴らしい経験をさせてもらいました。 *この前の大震災で「ベイシー」が3月の地震は凌いだけど、4月の余震で壊れたという噂があります。どなたか詳しいことがお分かりになったら、お教えください。
by dairoku126
| 2011-05-29 18:35
| 音楽
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