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『脱出』吉村昭

『脱出』吉村昭_e0171821_17391134.jpg少し前に読み終わった本ですが、印象深い本だったので…。

昭和20年の夏、敗戦が色濃くなってきた日本の辺境ともいえる地で日々を過ごす人々が文字通り「生」に向かっての脱出行。
突然のソ連参戦で宗谷海峡を封鎖された南樺太からの漁村から北海道へ向けての表題作に始まり、沖縄からの学童疎開船・対馬丸に乗っていた中学生の変転を描く「他人の城」、東大寺の仏像の疎開作業に関わった僧侶と囚人の「焰髪」、米軍の上陸作戦にサイパン島内を逃げ回る家族の話など5編の短編で構成されています。

吉村昭ならではの、周到な取材と資料に基づいた短編が並びますが、死というものが日常に溢れていると人間というのは麻痺してしまうというか、そんな日常に馴らされて行ってしまうのかと思うほど…。

実際、読んでいると一般庶民にとって南樺太や沖縄、サイパン島などでは戦争が身近に迫る直前までのどかな生活が送られていたようです。
本土のように空襲があったり、食料の配給が制限されたりしていなかった。
それが、わずか数日で悲惨な現実に一変する。しかも、情報がほとんど入ってこない。
営々と築いてきた生活を突然に破壊され、すべて放擲して生命を繋ぐ方策を必死に探る。
その変転を描いた作品とも言えるでしょう。
対馬丸が魚雷で攻撃され、沈められた後の漂流はまさに地獄絵図。

戦争の悲惨さとそこに現出する人間模様が凄まじいのひと言です。
こんな本こそ、国語で課題図書として若者に読んでもらいたい。

為政者の恣意的な「道徳」なんかを授業に組み込んだりしないでさ…。

by dairoku126 | 2018-03-24 18:11 | | Comments(0)


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