『ふぉん・しいほるとの娘ー上・下ー』吉村昭

e0171821_16495953.jpg長崎・出島のオランダ商館に医師として赴任したシーボルトの娘・楠本イネの話です。日本女性初の西洋医学による産科医師として、幕末から明治にかけて活躍したイネは、司馬遼太郎が大村益次郎を主人公にした「花神」にも登場してきます。
司馬遼太郎としては、イネが益次郎に淡い恋心を抱いて居て欲しい…との期待もあったようですが、実際にはそんなことは資料を読む限り無かったとガッカリしたとか。

さて、文語本にしても上下合わせて1,350ページにもなる大部の小説です。
イネの母親である瀧が丸山町抱えの遊女として出島に赴くところから、イネの娘の高子までの女三代の物語を丹念に資料にあたり書き下ろしたものだから。

冒頭に描かれているオランダ船到着を見張る野母崎の番所から始まり、長崎入港までの手続きの煩雑なことも含めて”鎖国”時代の長崎の町の雰囲気が伝わってきます。

上巻は、主にシーボルトの日本での事跡を追うことに焦点が当てられているのですが、彼の名声を慕う蘭学者たちがシーボルト事件に巻き込まれて行く様は読んでいて悲しい。シーボルトが追放になったのはイネが2歳の時。そこから、混血児として育つ彼女の苦闘が始まります。

父を慕うように医学の道に進むことを志し、鳴滝塾で父の門下生だった二宮敬作の教えを受けるために長崎の町を離れ、宇和島まで…。
その後は、実に波瀾万丈なストーリーが展開していきます。

宇和島藩主・伊達宗城の厚遇を得て、勉学に励む環境を整えてもらうのですが大村益次郎と出会うのも宇和島藩でのこと。この殿様は、実に開明的な人物だったのですね。
島津斉彬、松平春嶽と並び称されるだけのことはあったようです。

黒船騒ぎで開国となった時に再来日した父・シーボルトとの再開。異母弟にあたるアレキサンダーやハインリッヒとの関係は良好で、明治になってからは彼らの援助で上京、築地で開業した後は福沢諭吉の口利きで宮内省御用掛となるなど彼女の人生が花開いていく。

イネも娘の高子も、残された写真を見る限り美人だったようですね。
娘の高子は、松本零士が「メーテル」のモデルにしたとも言われています。

いやぁ、読み応えのある小説でした。

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by dairoku126 | 2017-12-12 17:51 | | Comments(0)


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