サマセット・モーム『片隅の人生』

e0171821_1349739.jpg僕は若い頃からサマセット・モームが大好きで、中野好夫訳のものは殆ど読んだのですが、いかんせん若い頃に買った文庫本なので茶色く変色してしまい、大部分を捨ててしまいました。
その後、折ある度に本屋を覗いてはモームの新しい本を探していたのですが、新潮文庫からは「月と六ペンス」や「人間の絆」など長編として定評があるもの以外は絶版。
短編集も「雨・赤毛」くらいのものでした。
「もう、今の若い人はモームなんて読まないのかしら…?」と思っていた矢先、先日書店で見つけたのが『片隅の人生』の新訳。
前に読んだ覚えはないのですが、読み始めたら俄然モームの世界に引き込まれました。

いわゆる「南洋もの」のジャンルに入る作品ですが、中国・福州で中国人相手に医院を営む初老のサンダース医師(しかも、モームらしく訳ありの人です)が、功成り名遂げてマレー半島の近隣の島に隠遁した中国人の目の手術に赴くところから、物語は始まります。
目の手術も無事に終わり、福州に帰ろうにも次のオランダ船が入るまで便船はありません。何の楽しみもない島で無為な時間を過ごすのにも飽きた頃、ヨットで南海をふらついているニコルズ船長と白人の若者の二人連れに出会い、オランダ船が来る島までの便乗を頼み込みます。

ニコルズ船長というのも、治療を頼んだ中国人に言わせると「札付き」の男。
そして同乗しているのは、いかにも「訳あり」なミステリアスな乗客の青年フレッド。
この3人の航海とそこで展開される腹の探り合いなど、南洋の島々を舞台に、老若男女の人間模様をシニカルな視点で描いていく長編は、モームの魅力に溢れています。

「ほんのすこし常識があって、すこしは他人の意見や行動を認める心をもっていて、そして温かいユーモアがあれば、この小さな星の上で楽しく穏やかに暮らすこともできるのです」というサンダース医師の言葉に、モームの達観した生き方が凝縮されているようで…。

そして、今日また本屋をぶらついていたら、新潮社からも「ジゴロとジゴレット」が新訳ででていました。ちくま書房からも「女ごころ」の新訳が…。
イギリスでも、最近はモームが再び注目を集めていると聞きましたが、こうして新訳が並び始めるところを見ると期待が持てますね。
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by dairoku126 | 2015-12-03 14:31 | | Comments(0)


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