このところ、松本健一の重たい本を続けざまに読んでいるので、寝る前の息休めのつもりで読み出したら止まらなくなりました。
浅田次郎が1995年に書いた連作短編集ですが、語り手である"僕"は某有名都立の高校生。浅田次郎は、学年でいうと私よりも3歳年下ですから、ちょうど私が大学生の頃。
1960年代の後半という時代が、良く描かれています。
「
霞町」といっても今の若い人に分かるかどうか?
現在は大部分が「西麻布」と町名が変わってしまった場所にありました。道路でいうと外苑西通りと六本木通りがぶつかる高架になっている交差点が「霞町」の交差点だった。
当時の風俗がディテールまで良く描かれていて、同時代に青春時代を送ってきた私にとっては懐かしい事柄だらけなのですが、3歳の年齢差を感じさせないほどの早熟さは、湘南の海でボケッとした青春と都会っ子との差なのでしょうか?
読んでいくと、オーティス・レディングの「Dock of the bay」がずーっと聞こえてくるような気さえしてきます。16歳で軽免許が取れ、ホンダのN360(エヌコロ)やマツダのキャロルなんて360ccのエンジンをつけたクルマが、高校生でも運転できた佳き時代でもありました。
実際、湘南学園の同級生では何人も、遅刻しそうになるとクルマで来て、裏の方に駐車していたヤツラが何人もいましたけど…。
ファッションでいえば、"僕"らが夜遊びに出かける時にバチッと決める「コンポラのスーツ」というのも懐かしい言葉です。私も会社に入って1年目の冬のボーナスで誂えました。
襟が細くて、浅めのサイドベンツが入っていて、ネクタイはスーツの襟に合わせて細身…というもの。シャープな印象が売りのスーツで、それまでアイビー系のものしか着てこなかった世代にとっては着るのに勇気がいるものでした。
風俗がしっかりと描き込まれているだけでなく、話の方も実に良く描かれている。
多分、麻布高校が舞台なんでしょうけど、浅田次郎は杉並の方の高校のはずですから、誰かにしっかりと取材をしたのか、あるいは遊び仲間がそうだったのか?
その頃の都会ッ子の心意気が良く伝わってくる短編集です。
大学で知り合った麻布高校出身ってナンパなんだけど、背筋に一本芯が通っているというか、自分の信条みたいなものをしっかりと持っているヤツが、確かに多かったですね。
短編の中では「夕暮れ隧道」、「雛の花」、「遺影」という辺りが、僕の好みかな?
舞台として登場する「パルスビート」でDJをやっていた石田亨の「あとがき」も、短編集の一部のようで素晴らしいものでした。
ということで、Otis Reddingの「Sitting on the dock of the bay」を…