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「恋しぐれ」ー葉室 麟ー

「恋しぐれ」ー葉室 麟ー_e0171821_9483844.jpg直木賞を獲ってから、執筆依頼が多いのか、立て続けに新刊を出している葉室麟ですが、これは旧作の文庫化。

老境に差しかかった与謝蕪村の恋を中心に、当時京都で親しくしていた円山応挙上田秋成、さらに自らが率いていた俳諧の夜半亭一門の人々が絡む短編を連ねて、ひとつの大きな流れを描いたもの。

それにしても、この「天明」という時代は他にも池大雅伊藤若冲と錚々たる画家が画業を競っていたのですね。
まさに百花繚乱の時代です。
当時、文人名鑑「平安人物志」の画家では、応挙が第一位、続いて若冲、大雅、蕪村という順位だったとか。

師の京都・祇園の妓女との老いらくの恋に、夜半亭一門の長老達は「妻も子もあるのに…」と冷淡だったようですが、蕪村の心に沈潜した思いは静かに燃えるばかり。
とはいえ、俳諧の一門の長老達というのはパトロンである大商人とか、夜半亭主人の座を狙う高弟達も含まれ、表面上はやむなく恋を断念しようかと煩悶する。
武士の一途な恋を描いた「いのちなりけり」とは違う恋のものがたり。

兵庫の大商人「北風家」という大パトロンが出てきますが、この北風家というのは司馬遼太郎「菜の花の沖」にも廻船問屋として主人公を援助していたような…?
ー閑話休題ー
祇園の妓女との恋を描いた第一章「夜半亭有情」から7篇の短編で、蕪村の娘・くのの恋心、蕪村の弟子・月渓(後の松村呉春)の恋心、蕪村の友人・円山応挙の恋心等、蕪村と蕪村に関わる人々の多彩な恋心が、作者独特の静謐な文章で描かれています。
それも、蕪村が残した俳句をヒントに、これらの恋を創作していくという凝ったもの。
特に最後の蕪村の死後に明かされる蕪村の秘めた想いが明かされる「梅の影」が素晴らしい。
清潔な文章で、淡々と描かれる恋の数々に清涼感を感じました。

こちらで、立ち読み出来ます。
by dairoku126 | 2013-08-20 10:43 | | Comments(0)


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