人気ブログランキング | 話題のタグを見る

「橘花抄」、「川あかり」

「橘花抄」、「川あかり」_e0171821_14595887.jpg年末に読んで、気持ちがジーンと痺れた2冊です。

「橘花抄」の方は、福岡藩の家老で茶人でもあった立花実山に引き取られた卯乃という少女を主人公に描かれていきます。

毎回、葉室凜の小説を読む度に武士の嗜みや文化というものについて教えられることが多いのですが、今回の「橘花抄」では「香道」と「茶道」が物語の伏線として大きな意味を持ってきます。
まぁ、立花実山自身が藩の要職にありながら、茶人としても南坊流(立花流)を開いた人ですからね。そして、失明した卯乃が預けられた先が、立花実山の弟で宮本武蔵の流れを汲む筑前二天流第5代の兵法家立花峯均の家。
この立花峯均を付け狙う小倉藩から放逐された佐々木小次郎の流れを継ぐ放浪剣士と玄界灘の孤島で、もうひとつの巌流島の闘いが小説の末尾で繰り広げられるのも興趣を添えます。

この小説のキャッチコピーは『逆境にあっても信ずる道を貫く男。光を失っても一途に生きる女。黒田藩お家騒動に翻弄される二人の運命は――。』とあるのですが、まさに美しい人間の生き様を描かせたら葉室凜の右に出る人は居ないかもしれない、と思わせる出来映えです。
しかも、読後感が実に爽やかなんですね。

葉室凜は、北九州出身というだけあって九州を舞台にした物語が多いのですが、この本では福岡藩が舞台。出て来る地名が現在と殆ど変わっていないので、物語を読み進んで行っても舞台背景が馴染みのある土地だと想像力が羽ばたきやすいこともあるのでしょう。

「橘花抄」、「川あかり」_e0171821_15393337.jpg「川あかり」は、派閥争いに巻き込まれ、藩で一番の臆病者と言われながら刺客の使命を帯びた伊東七十郎が主人公。
この「藩で一番の臆病者」というキャラクター設定が、この話を面白く、また味わい深いものにしているんですね。
葉室凜が重厚な作品だけでなく、軽妙なストーリー・テラーとしても一流という面を披露してくれています。

AMAZONの抄訳を、さらに抄訳すると『川止めで、木賃宿に逗留し、足止めを食っている間、思いもかけぬ市井の人々との触れ合い、さらには降って湧いたような災難が続き、気弱な七十郎の心は千々に乱れるが―ひとびとのためにやると決意したのだ、と自分を叱咤した。
たとえ、歯が立たない相手であっても、どんなにみっともない結果になろうとも、全力を尽くすのみだ。七十郎は叫びながら刀を抜いた。「それがしは刺客でござる」。』

藤沢周平の「用心棒日月抄」とか「よろずや平四郎活人剣」のように武士と市井の人々が身分を超えて交わりあった時の温もりを感じさせる一冊です。
by dairoku126 | 2013-01-06 15:58 | | Comments(0)


<< 高校ラグビー・決勝。 高校ラグビー準決勝 >>