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「英国機密ファイルの昭和天皇」

「英国機密ファイルの昭和天皇」_e0171821_16574961.jpg著者・徳本栄一郎は、ロイター通信特派員を退社後、国際政治や経済を中心に取材活動を行っているジャーナリスト。
この本は、公開された英国公文書館の諜報文書を丹念に読み込んでいって、第二次世界大戦前後の昭和天皇を中心に戦争を回避しようとしたグループが密かに英国との関係回復を図り、吉田茂・白洲次郎による対英米戦回避の動きや、戦後のGHQ(=アメリカ)との英国の外交戦などを明らかにしたものです。

世界帝国維持のために、イギリスの駆使するインテリジェンスの凄まじさ。陸軍参謀本部にいた秩父宮の英国留学から始まり、英国シンパを上層部に形成し、日英同盟破棄後にナショナリズムに覆われはじめた日本との関係修復のために皇室をターゲットに動いていたことが良く分かります。また、天皇を中心としたグループが、軍部の強硬論に支配された日本政府に知られることなく英国政府に関係修復のサインを送り続けていたことなどが文書として残されていたのです。その名代として動いたのが駐英大使に任命された吉田茂。
また、アメリカを参戦させたがっていたチャーチルの首相就任と共に、当時の駐日英国大使クレーギーが日英の関係を維持を図るための努力が握りつぶされ、大使解任まで追い込まれるあたりはイギリスの政治家の凄みや冷徹さを目の当たりにするような思いがします。

第二部では、戦後の天皇退位計画、カトリック改宗説、皇室の資産隠匿疑惑まで、興味深い資料が掘り出されています。また、サンフランシスコ講和後にアメリカ資本に対抗するために吉田茂の懐刀であった白洲次郎が通産省をつくり、英国ビジネスが日本に進出するフィクサー的な陰の働きをしていたことも証言として残されています。
戦前・戦後の秘史を描いたノン・フィクションとして興味深く読めました。
この本は2007年に単行本として出されたようですが、文庫本化にあたって元・駐日英国大使クレーギーが東京裁判の判決に異議を申し立てたり、チャーチルに握りつぶされた大使離任にあたっての報告などが新たに収録されています。
by dairoku126 | 2011-05-17 18:06 | | Comments(0)


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