ダルタニャン物語

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いやぁ、面白かった。
鈴木力衛訳「ダルタニャン物語」の第1巻「友を選ばば三銃士」から第11巻「剣よ、さらば」まで読み終わりました。
1冊平均520ページ以上あるから6,000ページ以上になりますね。ふーっ!
前に全巻読んだのは、20代の頃だから30数年ぶりということになりますね。
おまけに、その頃には無かった佐藤賢一「ダルタニャンの生涯ー史実の三銃士ー」(岩波新書)まで一気に読み上げてしまいました。

もちろん作者は、文豪アレクサンドル・デュマです。全体が3部構成に分かれ、最初の2冊がいわゆる「三銃士」にあたるダルタニャンの青春期、次の3冊が「20年後」というタイトルで連載された20年後の物語。アトスの子供・ブラジェロンヌ子爵が絡み始めます。
最後の6冊が「ブラジェロンヌ子爵」というタイトルで前の物語の10年後を描いています。
物語の最後でダルタニャンは念願の元帥杖を手にしながら死んで行きます。
「アトスよ、ポルトスよ、また会おうぜ!……アラミスよ、永遠にさようなら!」と呟いて…
だから、子供の頃に読んだ「三銃士」「鉄仮面」というのは、この「ダルタニャン物語」の一部に過ぎないのですね。最近もまた角川文庫から発売されましたが…。

特に「20年後」なんて第2部は、この物語を読まない限り知らないで済んでしまうのですが、それでは「鉄仮面」を読んだ時に何が何だか分からないでしょうね。僕も子供の頃に読んで、あんなに仲が良かったダルタニャンと三銃士が敵味方に分かれているのが理解できませんでした。「20年後」という物語は、時代的には「フロンドの乱」と呼ばれる幼少のルイ14世を摂政するアンヌ大后の恋人、マザラン宰相と敵対する貴族や市民階級との内乱を背景に、イギリスの清教徒革命で捕らえられたチャールズ1世を救出しようとするダルタニャンと元・三銃士(この時には銃士を止めて、それぞれの道を歩んでいます)達との痛快な物語に仕立て上げられています。その中で、第一部の因縁を引きずるように妖婦・ミレディーの息子が清教徒革命の首謀者・クロムウェルの腹心として登場していたり、アトス(この時にはラ・フェール伯爵に戻っています)の息子のブラジェロンヌ子爵が登場したりで、物語の膨らみを大きくなり始めます。

そして最後の「ブラジェロンヌ子爵」では、マザランの死と引き替えのように成人したルイ14世が親政をスタートさせようとする時代を背景に、ダルタニャンとアトスがチャールズ2世をイギリスの国王に復位させ、太陽王への道を歩むルイ14世の宮廷での恋の物語やアラミス(この時はイエズス会管区長・デルブレー卿としてキリスト教会の影の実力者となって行く)の進める大陰謀(ルイ14世には双子の兄弟が居て、それとルイ14世をすり替える)とが同時進行のように描かれていく。この双子の兄弟が「鉄仮面」の人物なのですが…。
主人公ダルタニャンは一貫して、銃士隊の副隊長から隊長という宮仕えの立場なのですが、任務と友情(公と私)を上手く使い分けています。むしろ公私混同のようなところが多いのですが、この時代そのものが公私が混在しているような時代なのですね。財務卿フーケにしたところで、公金と自身の財産が未可分という現在では考えられないような時代なんです。それが、コルベールによる官僚制の整備と共に絶対王政に変わり始める過渡期の時代なのですが…。
ダルタニャンが住みづらい世界で「最後の武人」として珍重されて行くのです。

読んでいて僕が会社に入った頃の広告業界とダブって来て、面白かった。
僕が会社に入った頃には、広告業界にはダルタニャンやアトス、ポルトス、アラミスのような伝説的な英雄・傑物といった趣の人は広告会社や媒体や得意先にも結構いました。それが、マーケティングの進化やメディアの多様化、経済のグローバル化などと共に官僚的なというか能吏のような人物に駆逐されて、どんどん小粒化してきているのですね。たまにドカーンとした花火を打ち上げるのもいますが、ちょっと有名になると守りに入ってしまう。
そこら辺は、20代で読んだ時には全く感じなかったことでしょう。

e0171821_14301256.jpgさらに興味深かったのは「ダルタニャンの生涯ー史実の三銃士ー」の方ですね。実在したのですよ、ダルタニャンは!
ちゃんとルイ14世の腹心として銃士隊長になっています。
それどころかアトス、ポルトス、アラミスの名前も残っています。この3人とも物語と違ってダルタニャンと同じガスコーニュ出身の銃士です。ガスコーニュ地方というのは、日本で言う薩摩のような尚武の気風を持った地域だったのですね。ブルボン王朝を開いたアンリ4世がガスコン人だったので軍制に縛られない王直属の近衛兵として銃士隊を組織したようです。まぁ、王に絶対的な忠誠心をもった私兵ですね。
だから地縁・血縁といったコネをもった腕に覚えのガスコン人は物語のダルタニャンのようにパリへ出て、王の銃士隊に入るのがサクセスへの近道だったのです。
さらに言うなら、デュマ自身の序文にもあるのですが、王立図書館で「ダルタニャン氏の覚え書」を発見して…という本も実際にあったのですね。これはクールティル・ドゥ・サンドラスという1644年生まれの作家が書いた文芸作品でダルタニャンの上京から戦没までを描いているとのこと。デュマは、この本をタネ本として<盗作とまでは行かないまでも>一気に書き上げて行ったらしい。
残念なことに鈴木力衛訳の「ダルタニャン物語」は絶版になっている。

2001年に単行本として復刊されたようですが、これも数少ないものになっているようです。
まぁ、どちらもAmazonで古書店から求めることは出来ますが…。
岩波新書の方は、大丈夫なので興味がある方はお読みください。
実在のダルタニャンも物語に劣らず、優れた人物ですよ。
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by dairoku126 | 2009-12-18 14:57 | | Comments(0)


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